プロが教える鍵の防犯その2~ 取り扱いとメンテナンス
「鍵の防犯その1」では、いくつかの鍵の種類や防犯性能のランクを紹介しました。
今回の第二弾は、「防犯性能を100%活かす鍵の取り扱い方法」をお教えします。
せっかく良い鍵を付けていても、扱い方が無頓着では効果が半減してしまうものです。
設置コストと性能をムダにしないために、正しい扱い方も併せて知っておいてください。
また、鍵トラブルで防犯の隙を生まないためのメンテナンス方法もお教えします。
防犯効果をムダにしない取り扱いのコツ
鍵の防犯性能とは、鍵そのものの頑強さや不正開錠の耐性だけではありません。
普段の扱い方ひとつとっても、防犯メリットを活かせるかどうかが大きく変わってくるのです。
せっかくの鍵を「単なるドア飾り」で終わらせないためにも、防犯を意識した取り扱いのコツを知っておきましょう。
鍵はやさしく扱う
金属製品の鍵について、頑丈で壊れにくいイメージを持つ人が多くいます。
ですが鍵はとても精巧に作られていて、複雑な仕組みで動く精密部品。
乱暴な扱いでダメージが蓄積されると、動作不良や破損の原因になってしまいます。
鍵を回す時は、スムーズに回ることを確かめながら力を抜いて捻るのがコツです。
引っ掛かりを感じるのに強引に回そうとする人、結構多いですよね。
これは鍵や鍵穴内部の破損の原因になるので、絶対にやってはいけません。
家に入りたい気持ちは理解できますが、万一壊れて使えなくなったら大変です。
「一旦鍵を引き抜いてから刺し直す」、「鍵や鍵穴に引っ掛かりの原因がないか確認する」など、落ち着いて対処するようにしてください。
これはメンテナンス面だけではなく、「回りにくい鍵をガチャガチャやっている様子を見せない」ための工夫です。
なぜなら家主が鍵の不具合と悪戦苦闘している姿は、泥棒にとって「安全に室内物色できるチャンス」を教えるようなものだからです。
なぜかというと、「玄関の方でガチャガチャ大きな音がしたら帰宅の合図」ということになりますからね。
鍵トラブルを抱えているなら、「家人の帰宅に気付いてからでも逃げる時間はたっぷりある」というわけです。
鍵トラブルを周囲に悟られないためにも、鍵の扱いはなるべくやさしく、大きな音を立てないように落ち着いてやりましょう。
鍵の保管や携帯にも注意を払う
鍵(手持ちのキー)を保管する時は、なるべく他のものとぶつかったり干渉しない場所を選びましょう。
持ち歩く時も、どこかにガンガンぶつける心配のない場所がベターです。
キーホルダーやキーチェーンで露出したままぶら下げるのは、接触ダメージの原因になるだけでなく、紛失・盗難のリスクも大きくなります。
なるべくポケットやバッグの中にしまうようにしてください。
鍵は摩耗や傷が大敵で、精密なものほどわずかな狂いがトラブルにつながります。
また、ゴミやホコリの付着でも動作不良の原因になります。
ギザギザ鍵の鍵山や、ディンプルキーの穴の中に異物が溜まりやすいので要注意です。
カードキータイプの鍵を使っている場合は、「失くしたり落としたりしても気付きにくい」ことに気を付けましょう。
金属製の鍵のようなガチャガチャ音がせず、重さもほとんど感じないためです。
また財布やカード入れにしまう時は、他のカードをギチギチに詰め込んではいけません。
出し入れの際に摩擦抵抗が強くなり、カード表面の摩耗を早める原因になります。
磁気情報が入ったカードはとてもデリケートですから、傷や摩耗を避けるよう丁寧に扱ってください。
特殊な鍵で、マグネットの磁力を利用する「マグネットシリンダー錠」というものもあります。
物理的な操作ではなく「磁力の誘引・反発でピンを動かす」構造で、磁力が失われない限りはスムーズに使えるのが特徴です。
防犯性はそこそこ高いのですが(ピッキング不可能)、破壊手口に弱いことやトラブル対応が難しいことなどから、現在ではほとんど使われていません。
自宅の鍵がこのタイプの場合、「手持ち鍵に強力な磁石が埋め込まれている」ことに注意してください。
携帯電話やパソコンなど電子機器の近くに置くと、磁力の影響で故障させてしまうおそれがあります。
玄関前のポストや植木鉢などに鍵を隠しておかない
家の人が別々に外出するとき、1本しかない鍵をポストなどに隠しておく光景もよく見かけます。
鍵を持って出かけなくても入れるための工夫(?)ですよね。
残念ですが、手慣れた空き巣や泥棒は「玄関周りの鍵の隠し場所」も熟知しています。
そのため安易に鍵を隠したつもりでいると、あっさり見破られて侵入被害… ということも。
鍵は必ず、外出する人が各自で持つようにしてください。
補助錠は低い位置に取り付けるのがお勧め
鍵屋ではトラブル解決の出動以外にも、「補助錠を取り付けたい」といったご依頼を受けることがあります。
1つのドアに2つ以上の鍵を取り付ける、「ワンドア・ツーロック」と呼ばれる防犯ノウハウですね。
操作しやすいドアノブ近くを望まれるお客様が多いのですが、当社でお勧めしているのは「膝下あたりの低い位置」です。
なぜかというと補助錠は、「不正侵入の手間を増やして諦めさせる手段」だから。
ドアノブ近くにある鍵は、人体の構造上開錠作業がしやすいのです。
これではせっかくの補助錠も効果半減!
簡単な種類の鍵だけですと、手慣れた泥棒には5分と経たずに全開錠されてしまうでしょう。
経験上、高い位置にある鍵や低い位置にある鍵は開錠作業しにくいです。
なぜなら、高い位置では腕に負担がかかりやすく、精密作業を阻害されます。
踏み台を使って作業するような場合も、転落リスクに注意が向くため集中を妨げられます。
反対に低い位置では、窮屈な姿勢で屈みこむか、横たわるような姿勢での作業を強いられます。
どちらの場合も開錠作業に集中しにくく、「侵入に時間をかけさせるのに効果的」というわけですね(当社スタッフはスマートに開錠します!)。
ではなぜ当社は、高い位置ではなく低い位置をお勧めするのか?
それは、高齢者や障がい者が訪問者対応で玄関に出る時、段差で転倒してしまい動けなくなる危険があるからです。
独居老人や一人で留守番している家庭の場合、ドア鍵が閉まったままだと玄関先でしばらく救助を待つことになりますよね。
低い位置の補助錠なら転んだままでも手が届きやすく、外からの開錠の手間を省いて迅速に救助出来ます。
また、小さな子供が一人で留守番する時も(母子・父子家庭に多い)、火災などで緊急避難する際に鍵に手が届きやすくなります。
鍵を紛失した場合の防犯ノウハウ
玄関の鍵開け相談の約9割は、「鍵を失くして入れない」のが理由です。
それほど鍵を失くしてしまう人は多く、同じ数だけどこかの家の防犯に隙が生まれていることも意味しています。
鍵紛失時の損害は、ただ家に入れなくなるだけではありません。
「その家の管理者が家の中を確認できない」状態になるので、防犯上はこちらのほうがより深刻。
鍵を失くした場合の正しい対処方法を知り、自分と自宅の安全をしっかり守るよう心掛けておいてください。
鍵を失くした場所をなるべく早めに絞り込む
鍵を失くしてしまったら、まずは落ち着いて「最後に鍵があった場所」を思い出しましょう。
そこから行動を逆にたどり、鍵を落とした可能性のある場所をしらみつぶしに探すのです。
駅や店舗などスタッフが常駐する施設に立ち寄っているなら、鍵の落し物が届いていないかを確認。
人気の少ない路上や空き地で落とした可能性が高ければ、すぐに警察へ届け出るのが安全です(警察庁もこう推奨しています)。
どこで鍵を失くしたのかをなるべく早く絞り込めれば、ムダな手間と労力を省くことにつながります。
また、夜間人通りの少ない場所で鍵探しにウロウロする… といった無防備な状況も避けやすくなります。
ストーカーに心当たりがないかどうかを考える
女性が鍵を失くした場合、「ストーカー被害に心当たりがあるかどうか」で深刻度が変わってきます。
これは男性でも稀にあるケースですが、自分を尾行・監視している不審者に鍵を拾われる可能性が出てくるからです。
もしもストーカーの存在が疑われるようなら、すぐに鍵屋へ電話して開錠を依頼するのがお勧めです。
遠目から尾行者目線で見た場合、どこへ電話しているのかなどまず判別しにくいものです。
鍵屋かも知れないし、友人知人かも知れません。
やましいところがあるストーカーには、「自分の存在に気付いて警察を呼ばれたのかも…」と思わせられるかも知れません。
鍵屋を待つ時も安全第一
鍵屋へ依頼して到着を待つ間、「どこでどのように過ごすのか」も防犯ポイントのひとつです。
自宅前の人通りや車通りが多ければ、玄関前でそのまま待機(外から見えやすい場所で)。
自宅付近に人気の少ない場合は、付近の家や店舗(営業中)の近くで自宅を見張るように待機します。
夜間なら「自宅玄関が見える明るい場所」や、「開いている店舗の入り口付近」が比較的安全です。
あるいは近隣の建物のそばで、明かりがついている窓の近くもいいでしょう。
これは、女性が夜間の屋外で鍵屋を待つ場合「ストーカーや痴漢などに狙われる危険もある」ためです。
退屈そうにポツンと立っていたりすると、ナンパ目的で声を掛けられやすいのも鬱陶しいですよね。
そうしたリスクを避けるためにも、「大声を出せば誰かが気付いてくれる場所」で待つことをお勧めします。
また、暇つぶし目的でスマホに熱中してしまうのはあまりお勧め出来ません。
痴漢のターゲットにされやすい女性は、「スマホなどに熱中していて周りが見えていない」ことが多いからです。
時々周囲を見渡して、怪しい人物がいないかどうかを確認しましょう(一瞬ではなくじっくりと!)。
深夜で付近が寝静まっているような場合は、近くの交番で鍵屋を待たせてもらいつつ遺失物届を出すのもお勧め。
交番が近くになければ、最寄りのコンビニ店内で鍵屋を待つのも安全です。
鍵屋には「深夜で女性一人なので○○にいます」などと伝えておき、合流してから自宅に案内すればいいわけです。
到着待ちでいったん家から離れる場合
鍵のかけつけ本舗が出動依頼を受けた場合、早ければ15分でスタッフが現場急行(首都圏4都県エリア)!
しかし残念なことに、体制の整っていない鍵屋や悪質業者は1時間~2時間ほど待たされることもザラです。
このため冬場などの寒い時期には、「外で待つのは辛いから」と、近くのお店や知人宅に避難したくなる人も多いでしょう。
確かにお客様の身の安全を考えると、一時避難も悪い方法ではありません。
ですがストーカー被害に心当たりがある場合など、鍵を失くしたまま自宅から目を離すのは危険!
例えば、鍵を拾った不審者にそのまま後を尾けられていると、家を離れた数分~十数分で室内を物色されるおそれが出てくるからです。
離れた場所に一時避難する際は、「顔なじみの隣近所に事情を話して緊急時に電話をもらうようにする」など、近隣監視の保険をかけておくといいでしょう。
大手コンビニチェーンの多くは、街の防犯協力に力を入れることでブランドイメージを高めています。
自宅から見える場所にコンビニがある場合は、店員に頼んで店内から見張らせてもらったり、ウインドウ付近の作業時に自宅付近を監視してもらえるかも知れません。
もしもの際には監視カメラの映像提供も期待出来ます。
メンテナンスで防犯力アップ!鍵トラブルを防ぐ方法
既に書いたように、「鍵を管理している人が自宅に入れなくなる」状況は、防犯面で大きなマイナス。
まさかの鍵トラブルで泣かされないよう、日頃から簡単に出来るメンテナンスの方法を紹介します。
鍵穴用潤滑剤を使う
長く使っている鍵は、ゴミや汚れ、変形などでスムーズに動かなくなることがあります。
鍵穴用の潤滑剤を定期的に吹き付けておけば、鍵の動作がスムーズになり破損や摩耗を防ぎやすくなるのでお勧めです。
ただし注意として、「鍵穴用以外の潤滑剤や油をさしてはいけない」ことを絶対に守ってください。
鍵は精密部品であると同時に、「鍵穴内部に溜まった液体が排出されにくい構造」になっています。
そのため「KURE 556」などの一般用の潤滑剤を使ってしまうと、残留物が内部で固まることでベタつき、ゴミやホコリを集めてしまう原因になるのです。
鍵穴用の潤滑剤はサラサラしたパウダー状で、残留物が動作を阻害する心配はありません。鍵メーカー純正の潤滑剤や「鍵穴のクスリ」など、鍵穴専用の潤滑剤だけを使うようにしてください。
また、鍵穴用潤滑剤は濡れていると効果を発揮出来ません。
鍵穴が乾いた状態で使うことにも注意しましょう。
鉛筆で鍵の動作をスムーズにする
鉛筆の芯には「黒鉛」という成分が含まれています。
黒鉛は鍵の出荷時にも充填されることがある潤滑材で、金属部品の接触を滑らかにする効果があります。
鉛筆(〇B、数字が大きいもの)で手持ち鍵の鍵山をなぞり、鍵穴に数回出し入れしてみましょう。
こうして鍵と鍵穴内部に黒鉛を付着させれば、手軽で安上がりなメンテナンスが出来るというわけです。
この方法を試した後は、掃除機などで芯の粉を掃除するのも忘れないようにしてください。
粉が多量に残ったままでは、かえって異物トラブルを引き起こすことがあるからです。
また、鉛筆の先を直接鍵穴に突っ込んではいけません。
折れた芯が中に残るおそれがあり、鍵が刺さらない、回らないといった不具合の引き金になってしまいます。
掃除機で鍵穴のゴミを掃除する
当社でカギを修理する時、お預かりした鍵を分解してみると「内部にゴミがギッシリ!」ということがよくあります。
狭くて小さい鍵穴ですが、風で舞い上がったゴミや手持ち鍵に付いた異物が入りこむことは、そう珍しいことではありません。
こうして中に溜まったゴミが精密部品の動作を妨げ、鍵トラブルを引き起こす原因になるのです。
時々掃除機で鍵穴内部のゴミを吸い取り、クリーンな状態に保つこともメンテナンスの一環です。
ノズルの先を鍵穴に密着させ、小さく左右に動かしながらやると吸引力が高まります。
前出の「鉛筆メンテ」と一緒にやれば、黒鉛の潤滑効果と鍵穴掃除のWメンテで一石二鳥です!