プロが教える鍵の防犯その1~ 不正解錠に強い鍵・弱い鍵
鍵についてのお困りごと
鍵のプロに相談する多くの家庭や事業所で使われている鍵(錠前)は、種類によって防犯性能に優劣があります。
どんな鍵は不正開錠に弱いのか?
反対に、どんな鍵なら強いのか?
これをきちんと知っておけば、自宅の防犯体制が大幅にパワーアップ!
今回は不正開錠に強い鍵と弱い鍵を紹介し、家庭の防犯用としてお勧めの鍵も紹介します。
不正開錠の手口を知っておこう
鍵の防犯知識を深めるためには、「侵入者がどんな手口で鍵をこじ開けようとするのか」を知らなくてはなりません。
内容の性質上あまり詳しくは書けないのですが、おおよそどのような手口があるのかを簡単に説明します。
鍵の性能に関する記事の多くは、これらの手口の名称が必ずと言っていいほど出てくるので覚えておくと便利です。
ピッキング
テレビのニュースや情報番組など、不正開錠の事例が紹介される時によく見かける手口。
鍵穴に特殊な工具を差し込むことで、内部構造を操作して開錠する古典的な方法です。
破壊行為を伴わず大きな音を立てないため、鍵穴周辺の傷などを調べなければ露見しにくい手口になります。
熟練者なら数秒~十数秒で開けることも可能ですが、対策が施されていない旧式の鍵にしかほぼ通用しないので、使われる比率はそれほど多くありません。
サムターン回し
鍵が付いているドアに直接穴を開け、内側の開錠ツマミ(サムターン)を回すという強引な手口です。
ドリルで穴を開けるため大きな音を立てやすく、基本的に使える場所は限られています。
ただし、ドア周りに隙間や穴が初めから開いている場合、ただ金属棒を差し込めば済むので難易度は大きく下がってしまいます。
他にも、新聞受けの隙間を利用したり、覗き穴のスコープを外してその穴を利用する手口もあります。
カム送り(バイパス開錠)
鍵穴が付いている台座部分(シリンダー)を引っ張るようにして浮かせ、ドアとの間に出来る隙間に工具を差し込む方法。
ドア内部の「箱錠」と呼ばれる本体部分を直接操作する手口で、ピッキング対策の鍵が出回り始めた2000年以降目立ってきたパターンです。
バンピング
海外ではかなり前からポピュラーな手口で、日本ではここ数年(2020年8月時点)知られ始めたようです。
バンプキーと呼ばれる特殊な鍵を使って開ける方法で、ピッキングよりも簡単とされています。
バンピングは「ピンで施錠するタイプの鍵」を開けるための手口です。
ピッキングでは難しいとされる「ディンプルシリンダー」でさえ開錠可能な技術ですが、弱点として、ピッキングで簡単に開けられる「ディスクシリンダー」は開けることが出来ません。
破壊開錠、溶解破錠
鍵穴内部をドリルで壊したり、特殊な薬品を流し込んで壊してしまう乱暴な手口です。
一般的なドア鍵のメカニズムは、「シリンダー」を構成する内筒と外筒が固定されることで施錠します。
シリンダーの鍵穴に合うカギを差し込むと、固定部品が外れて鍵と一緒に内筒が回り、ロックが外れる仕組みです。
破壊開錠は、鍵穴の内部機構をドリル等の工具でズタズタに壊してしまい、固定を解除する方法。
溶解破錠(メルティング)は、金属を溶解させる薬品で鍵穴内部をドロドロにして施錠を解く方法です。
破壊開錠はかなり大きな音がするので見つかりやすく、人がいない深夜のオフィスなど使う場所は限られています。
よく映画やアニメなどで、泥棒が金庫室ドアの鍵を派手に壊して侵入したりしますよね。
あんなことを住宅街の一軒家でやったら、意気揚々と出てきた途端に警官隊がお出迎え。
また溶解破錠で使われる薬品も、劇物指定されているので簡単には入手できません。
このためどちらの方法も、一般の住宅侵入ではまず使われることはありません。
鍵の種類と防犯性能のランク
おおよその手口がわかったら、次は鍵の種類ごとの防犯性能を見てみましょう。
不正開錠には様々な手口があるため、「全ての手口に万能な強さを誇る鍵」というのはそれほど多くありません。
特定の手口に強い、またはその逆で弱点を持つ鍵がほとんどです。
鍵の種類とそれぞれの防犯性能のランク(最高S~最低C)を見てみましょう。
ディスクシリンダー(Cランク)
現在流通している鍵の多くは、「ロータリーディスクシリンダー」や「ディンプルシリンダー」といったピッキングに強い種類のものです。
しかし2000年頃までは、ピッキングに弱い「ディスクシリンダー」型が最も多く流通しており、古い建物ではいまだによく見られます。
ディスクシリンダーは、鍵穴が「}」のような形で縦になっているのが特徴です。
ディスク形状の障害物が鍵の回転を妨げる仕組みで、正しい鍵を刺すことによってディスクが動いて開錠します。
バンピングには強いですが、それ以外の手口にはほぼ無力と言っていいでしょう。
特にピッキングにはとても弱く、ディスクシリンダー全盛期だった2000年以前の侵入手口はピッキングが大半でした。
自宅の鍵がこのタイプだった場合、なるべく早く他の種類に交換することをお勧めします。
ロータリーディスクシリンダー(Bランク)
ディスクシリンダーの弱点を改良し、ピッキングに強くなったタイプ。
ディスクシリンダーの生産が終了した2000年代以降、このタイプが主流になってきています。
鍵穴はディスクシリンダーと同じ「}」の形をしていますが、ロータリーディスクシリンダーは水平(横向き)なので見分けられます。
内部の構造が複雑になっており、ピッキングではそう簡単に開けられなくなりました。
価格も安めでコストパフォーマンスに優れるので、ディスクシリンダーからの乗り換えにお勧めです。
ピンシリンダー(Bランク)
内部機構にディスクではなく、棒状のピンが使われている鍵タイプ。
ディスクシリンダーよりはピッキングに強いとされていますが、内部のピンの本数が少なければピッキング開錠は簡単です。
ピンシリンダー錠の鍵穴は、ロータリーシリンダーよりも複雑でギザギザした形(ドット絵のよう)です。
本数が多いタイプのものでなければ、早めに交換を考えるほうが安全です。
ディンプルシリンダー(Aランク)
ピンを使った内部機構の鍵。
ピンシリンダーはピンの配置が一方向のみなのに対し、左右にもピンを配置した複雑な機構がディンプルシリンダーの特徴です。
そのためピッキング開錠にとても強く、セキュリティ性を重視する建物や鍵製品でよく使われています。
ディンプルキーの鍵(手持ちキー)は、一般の鍵によくあるギザギザ形状ではなく、金属板に穴がいくつも開いたような形をしています。
鍵穴はほぼ綺麗な長方形([])なのが特徴です。
ロータリーディスクシリンダーと並び近年の主流ですが、大手メーカー以外の粗悪なものはピッキングで開けられるため要注意!
プロの鍵屋でも、難度が高いディンプルシリンダーの開錠は断られるケースがあります(もちろん当社は問題なく開錠出来ます!)。
また合鍵の作製も難しく、万が一鍵を落として拾われても低リスク。
総合的に見て最も防犯性に優れる鍵タイプ、と言えるでしょう。
カバスターネオ(製品名、Sランク)
この鍵はディンプルシリンダー方式を採用していますが、防犯性能があらゆる鍵の中では群を抜いているため、製品名称で紹介します。
スイスのカバ社が作っている「カバスターネオ」は、同社の最上級モデル。
ピッキングに強いだけではなく、
・独自の鍵登録システムで、合鍵の無断作成が困難
・ドリルなどの物理破壊や、薬品で内部を溶かす溶解破錠(メルティング)にも強い
・あらゆる不正開錠手口に10分程度耐えられ、侵入者が諦めやすい
・鍵パターンが2兆2千億通りあると言われ、偶然のパターン一致の心配も無い
といったような、世界最高水準のセキュリティ性能がメリットです。
建物の侵入犯は、「侵入に5分以上かかると諦める」傾向があります。
時間がかかると発見されるリスクが高まるからです。
ピッキングに強い鍵は数多く作られていますが、鍵自体の破壊や溶解にまで耐えられるのは、カバスターネオと後述のマルティロックくらいのもの。
スイス銀行やルーブル美術館など、世界の重要施設で多数採用されているあたりも、カバスターネオの信頼性が窺えます。
マルティロック(製品名、Sランク)
カバスターネオに並び、世界最強と言われる鍵が「マルティロック」。
イスラエルのマルティロック社製の鍵ですが、なぜイスラエルから最強の鍵が生まれたのか?
イスラエルは、戦争や内戦・テロなどが日常茶飯事の中東の国。
人口当たりの犯罪発生率が日本の約5倍と高く、そうした過酷な環境の中でハイレベルのセキュリティ製品が磨かれてきたわけですね。
マルティロックの鍵製品は「とにかく頑丈」なことで知られ、テロリストなどの破壊行為に対しても無類の強さを発揮します。
しかしこの鍵で特筆すべきは、ディンプルシリンダーの耐ピッキング性能をさらに進化させた「Wディンプル」方式。
ただでさえ小さいピンの中に、さらにもうひとつのピンを重ねるという離れ業をやってしまったのです(マトリョーシカ?)。
各部品の強度が充分だからこそ可能な構造で、カム送りなど錠前本体への攻撃を防ぐプロテクターまで備えており、ほぼ死角はないでしょう。
ただし注意点として、「マルティロックの旧式の鍵はバンピングに弱い」ことでも有名です。
マルティロックの導入を考える際は、必ずバンピング対策が施された最新型のものにしてください。
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一般家庭の防犯にお勧めの鍵
鍵を交換する場合、防犯性能の高さと価格は比例します。
銀行の金庫に使われるようなものを家庭のドアに付けるのはムダな出費になりますから、コストパフォーマンスを考えて最適なものを選びましょう。
カバエース
カバスターネオと同じくカバ社の製品ですが、こちらはエントリーモデルで安価なため、気軽に付け替えることが出来てお勧めです。
Amazonでの販売価格(参考)を見てみると、カバスターネオが約14,000円なのに対し、カバエースは約5,000円。
実に3倍近い価格差があります。
もちろんカバ社の製品ですから、「安かろう悪かろう」などということはないので安心してください。
GOAL V18
日本の鍵メーカー大手「GOAL(ゴール)」がリリースしているディンプルシリンダー方式の鍵。
その名の通り「18本ものピンを備える耐ピッキング性能」が目玉で、ピッキング開錠に10分以上かかるため防犯性は抜群です。
ドリルを使った破壊にも耐えられるよう設計されており、家庭用防犯鍵としてはトップクラスの性能になっています。
Amazonでの参考販売価格は、カバエースと同じく5,000円ほど。
MIWA PR
国内最大手の「美和ロック(MIWA)」からは、独自方式のロータリータンブラーを採用した製品です。
高性能鍵に多く使われているディンプルシリンダーとは違いますが、この製品は独自開発の「2WAYタンブラー(2種類の回転障害物)」により、耐ピッキング・バンピング性能ともに優秀。
また、鍵穴の内部破壊に耐える高硬度部品も使われており、破壊開錠にも強さを発揮します。
こちらも参考価格は5,000円ほどですが、破壊開錠の耐久性によって3ランクの製品ラインナップがあります。
その他・家庭防犯に役立つ鍵
一般にイメージされるメイン鍵(回転式)以外にも、防犯に役立つ鍵がいくつかあります。
「補助錠」はメインの鍵と一緒に取り付ける簡単な鍵で、単純に開錠の手間をかけさせることで侵入を断念させるのに役立ちます。
狙いたい家のドアに鍵が2つ以上付いていたら、ほとんどの泥棒はその時点で二の足を踏むことでしょう。
玄関ドアだけでなく、ベランダなどの窓に付ける補助鍵もあります。
「カードキー」は、物理的な仕組みではなく電子認証で制御するシステム。
設置には電気系統の配線工事が必要になるので、交換費用がやや割高になるのはネックです。
ピッキングやバンピングといった従来型の手口が通用せず、そうした意味では防犯性が高い鍵と言えるでしょう。
ただし、デメリットも多いことには注意してください。
開錠に使うカード自体が破損しやすく、動作に支障をきたすおそれがあること。
ペースメーカーに影響を及ぼす危険性があること。
オートロック機能が付いているため、鍵を室内に忘れると締め出されること(ホテルで見かけるあのシーンですね)。
これらの点をよく検討して、導入するかどうかを慎重に判断してください。
また、ポピュラーなものとしては「ドアチェーン」も防犯に有効です。
チェーンが弱いと工具で切断されやすく、長過ぎてしまうと外から手を突っ込んで解除されます。
チェーンや固定金具に頑強な素材が使われており、外から手が入らない長さのものを選びましょう。
ここで最後に、「ドアチェーンが長過ぎる時のウラ技」をご紹介します。
チェーンの先端部分をつまんでピンと伸ばし、左右どちらかにねじるように回してみてください。
この時チェーンがよじれてらせん状にまとまるようなら、そのままドアに引っ掛ければ短く使えます(ヒモ状のものは固くねじれば短くなる)。
先端を回した時にチェーンがよじれずピンと張ったままの場合、この方法は使えません。
そんな時は、チェーンの途中を針金などでΩ字状に結んでしまえば、自由に長さを調整することが出来ます(根元付近が外から見えにくいのでお勧め)。